うつ病に対する傾聴

うつ病になって一番辛いのは「倦怠感」「不安感」「睡眠障害」などではありません。最も辛いのは「理解されないこと」です。だからこそ、うつ病の人には傾聴が必要です。それもできれば精神科医や心理カウンセラーではなく、家族や友人が傾聴できると大きな支えになります。

うつ病の対する傾聴

うつ病の人の傾聴をする時のコツは「昼夜逆転を解消する」「ひきこもりを解消する」という方向性ではなく、「なぜ、そうせざるを得ない状態なんだろう?」という発想です。うつ病の人は今までできることができなくなったり、どうにもならない倦怠感や不安感などに悩まされています。その結果としておかしな行動をしますが、その行動を改善しても意味がありません。その結果になってしまっている元があるからです。傾聴をするターゲットはその部分になります。

1.朝がとにかく辛いのがうつ病

朝起きるとありえないくらい体調が悪い。体が重い。家族は元気な人のルールで「よく寝た?」「元気になった?」と期待した顔で聞いてきます。それがまず辛いのです。うつ病になると夜は比較的調子が良いですが、朝は動けません。それがうつ病の症状の一つです。朝会社に来ないからと「会社に来るべきだ」という話をするのではなく、誠実に出社しようとしているにもかかわらず、結果として会社に来れないほどの何かが本人の中で起きている。それを傾聴しようとすると寄り添うことができます。

1)傾聴できるならつらさを聴く

うつ病の人のコンディションや傾聴する人との関係性にもよりますが、「いかに朝がつらいか」を語ってくれることもあります。うつ病の人は症状のつらさをわかってもらうことを喜ぶ傾向にありますので、一度話が始まるとたくさん話してくれることもあります。(ただし、最初の数名が傾聴に失敗するとうんざりして今度は話をしなくなります。最初に傾聴する人は責任重大です)

恐らく、うつ病の人から傾聴する内容は当事者じゃない人にとっては外国の話のようなずれ方をしています。「だったらこうすればいい」とか「自分も昔そうだった」と安易に理解した前提で話を進めずに、異国の文化をじっくり理解するつもりで聞いてください。

 

2)「わからないけれどわかる」

当事者じゃない限り、100%理解するのは無理です。それは宇宙に行ったことがない人に宇宙の話をいくらしても実感がわかないのに似ています。それでもできるだけ傾聴をしたら「わからないけれどわかる」と共感します。これはダブルバインドというテクニックで、「同一人物じゃないから、わからないんだけれどもじっくり聴いたからわかるような気がする」という言い方です。こちらの返し方がすでに葛藤を起こしている状態なので、話し手は「わかるわけないじゃん」と返せば「そういったよね!」ということになり、「わかってくれるんだ!」と返しても「そういったよね」となる言い回しです。テクニカルですがこの返し方のニュアンスがうつ病の人が内部で起こしている葛藤にマッチします。うつ病の人は「わかってほしいけれど、わかるわけない!わかるものか!」と思っています。その葛藤を投影した形で伝え返すと「ニュアンスも含めてわかってもらえた」という結果になりやすいのです。

 


2.解決策は当面不要

オンライン傾聴講座のサイトでは何度か書いている例えですが、うつ病の人はバスケットボールをやっています。そして、周囲のいわゆる元気な人はサッカーをしているのです。

1)解決策が当たらない

うつ病の人の世界観=バスケットボールが完全に理解できるまでは問題を解決することはできません。サッカーのルールで「PKに持ち込めば良い」とか「センタリングが」「キーパーが」と言われても話が通じません。無理やり、バスケの世界でやろうとしても非常に大きな工夫が必要になります。解決策を考えてみても相手の世界観が理解できるまでは的に当たらないのです。

2)うつ病を治すのは本人

傾聴をしていると何とかこの人のうつ病を治してあげたい気になります。しかし、それは本人にしかできないことです。私たちができるのは本人の中のうつ病を追い出すチカラを強め、本人が戦いやすい環境を整えてあげることです。傾聴をしている人がちょっと聞いた情報でアドバイスをしても恐らくそんなことは当人がとうの昔に試していることなのです。

 


3.理解されることがうつ病に効く

冒頭に「うつ病は理解されないことがつらい」と書きましたが、症状以上につらいのが理解してくれない周囲の対応です。それによって孤立感を強めたり、自分を責めてしまったりすると症状が良くなりません。

1)共感的理解

うつ病にはこれが非常によく聴きます。たった一人で森の中をさまよっていた人がようやく人に出会うことができたような安心感が共感的理解にはあります。「ああ、ようやくわかってくれる人ができた」この気持ちが本人の自力を強くしてくれます。逆に完全に気持ちを理解して、受け止めたという感覚になるまで丁寧に話を聞いてください。

2)人としての理解

うつ病だからうつ病のことをたくさん聴いてしまう気持ちはわかります。しかし、その人はうつ病患者以外にも10,000通りもの特徴、肩書きを持っています。「元サッカー部」「絵が得意」「相棒をよく見ている」「ジンジャーエールが好き」「片付けるの苦手」それらもその人の理解すべきパーソナリティの一つです。うつ病患者として理解を進めていてもその人の中のオフになってしまったチカラがオンになることはありません。その人をうつ病患者としてではなく、人として傾聴して、理解することでうつ病患者というレッテルによって見えなくなっていたその人の個性を呼び起こすことができます。

3)傾聴が届けられる思い

上手な人が傾聴をすれば、うつ病や不登校、ひきこもり程度なら多くの場合、快方に向かいます。ただ、傾聴と簡単に言葉で言うのは簡単ですが、「ああ、本当に理解してもらえたんだ」と話し手が100%あるいは「予想以上に理解してもらえた」と150%で満足する傾聴ができる必要があります。

元うつ病患者、ひきこもりの経験からして、100人のカウンセラーに話を聴いてもらったとしてもそのうちの90人は「自分がカウンセラーであること」「学習した知識」「こうなるに違いないという先入観」など僕ではない誰かとやりとりをずっとしていました。つらいと言ってないのに「つらかったでしょう?」と決めつけてきたり、「わかります!」とわかってもいないのに共感のふりをするようでは本当の傾聴になっていません。こちらが技術を使っていたとしてもそれを1mmも感じさせずに、話し手が想像もしなかったような理想的な受け止め方をして、話し手が完全にその世界を満喫できて初めて傾聴です。

その領域になるまで同じ「傾聴」という言葉の意味がまったく違うのだと思います。傾聴は非常に強力なツールですが、多くの人が表面的なところで理解しています。ぜひ本格的に習得してみてください。家族のやりとり、仕事のやりとりだけでなく、今後生きていく上での様々なコミュニケーションが劇的に変わります。

 

1件のコメント

  1. 傾聴の奥深さを感じました。
    うつ病の定義や症状は本やHPに載っていますが、その知識を単に目の前の人に当てはめるのではなく、目の前の人の世界観にどれだけ近づけるかが大切なんですね。
    1時間のカウンセリングでも大切なのは前半でどれだけ目の前の人を理解できるかなのだなと思いました。

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