精神科での傾聴のコツ

精神科での傾聴のコツ

精神科には一見しただけでは理解できない症状の方が次々と訪れます。それだけではありません。病院にもよりますが一人のドクターが診ている患者さんの数は1日100人を超えます。

1.傾聴を場にしみこませる

ひとりあたりに換算すると5分もない時間でも傾聴をすることはできます。そして、その人を元気にしたり、その人の強さを引き出すことさえできます。傾聴は時間ではないからです。多くの精神科は話をしたり、笑顔になってはいけないような雰囲気があります。しかし、場の雰囲気作りを工夫するだけで患者さんは笑顔で挨拶をするようになり、リラックスして気持ちを話しやすい空気になります。

受付の挨拶一つでも傾聴しやすい流れにすることができます。人は雰囲気だけでも心を開くことができるからです。傾聴をテクニックと思っていると難しいですが、傾聴を「あり方」「価値観」「世界観」だと考えると1:1の人間関係じゃなくても1:多、病院の空間にすらしみこませることができます。

2.想起のフレーム

傾聴をスムーズに始める時に一番大事なのは話し手が話す内容について想起しやすい状態になっているかどうかです。気が散っている状態だったり、集中しにくい状態だったり、何を話してよいかわからない状態だと患者さんはスムーズに話し始めることができません。また、闘病生活が長い患者さんは何度も繰り返し説明している定型文のようなエピソードを話す癖がついています。

傾聴の時に何を伝えたらよいか?どんな風に表現したら伝わりやすいかなどの枠組み(フレーム)があるとそれが想起するヒントになり、患者さんは話を用意してくれます。

3.種まきとしての自己開示

精神科医や心理カウンセラーなどは自分が何について詳しいのか?どんな考え方を持っているのか?それをホームページや診察前の雑談で簡単に自己開示できると患者さんは話のレベルを合わせてくれます。自己開示のエピソードが傾聴の流れの基準になると患者さんはそれをヒントににたエピソードを思い出したり、自己開示の流れにあわせて、話をしてくれます。1分の自己開示が患者さんのインスピレーションにつながるように話ができると傾聴の質が一気に上がります。

4.集約されたキーワード

精神科で傾聴をする時には患者さんの感情の動きに注目します。そして、感情の動きが大きいキーワード、全身の動きが大きいキーワード、表面的な言葉ではなく、その言葉の後ろにどれだけ大きな感情や身体の動きがあるか?その大きいものを掴んで生かすことができれば傾聴の時間が短くても患者さんの気持ちを動かすことができます。電子カルテにそのキーワードひとことがあるだけで精神科医が心理カウンセラーができることが変わります。

5.全身でメッセージを聴く

精神科に限らず、一般の傾聴でも同じですが患者さんは言葉にしにくい思いを頑張って言葉にしようとします。その単語はおそらくぴったりな表現ではありません。「不安」とひとこと言ったとしてもその発音、間、ボディーランゲージなど全てを聴き取る必要があります。震えた声だったか、窮屈そうだったか?その言葉の前の間が長かったか?胸をおさえていたか?視線はどこを見ていたか?言葉にならなかった部分を拾い上げることで「不安」という単語ひとことからもたくさんのことを察することができます。場合によっては言葉を発することさえなくても「胸をさすりたくなるような感覚」を察することもあります。そのまま、「ぴったりした言葉は見当たら無いかもしれませんが、胸のあたりのこの感じ」と言いながら仕草を真似するだけでも共感を示せることもあるのです。

6.マニュアル化しない

電子カルテが高度になる程、情報共有が早くなり、その分精神科医は電子カルテに縛られます。患者さんを見ずに電子カルテばかりを見るようになります。震えに気づかず、胸をさすっているのを見落として、「不安」と聞いて「不安」と入力するのならパソコンスキルで事足ります。

人の心を癒せるのは人の心だけです。患者さんも5分しかないのは知っています。その中での誠実さ、まごころが伝われば患者さんと繋がることはできるのです。精神科における傾聴はテクニックでは間に合いませせんが、本質を理解していればそれを実行することはできます。より多くの精神科が通う場所ではなく、治す場所になってほしいなともと当事者としては願うばかりです。

 

 

 

4件のコメント

  1. いつもありがとうございます。子供の思春期外来の精神科での対応があまりに事務的で びっくりしたことがあります。最初のアンケートでは看護師さんが丁寧に聞いてくれたのに いざ診察室に入ると
    アンケートも読まず また 何に困ってるのかを聞かれ、沢山の困り事の中でやっと答えられた「眠れない」に対しての薬を処方されただけでした。
    混んでいて大きい病院はベルトコンベアーのように患者さんをこなしてる印象を受けました。反対にじっくり聞いてもらえる病院は予約が取れないのです。患者さんは自分のことをわかってもらいたいので短い診察でも心があるかないかは敏感にわかるんですよね。 本当に通う場所じゃなく 治す場所、安心できる場所になってほしいと共感しました。

    1. Author

      コメントありがとうございます。精神科・心療内科の立ち上げに関わっていて知ったことですが、病院の経営コンサルタントが出してくる資料に「お客さんが減る」計算がないことに驚いた覚えがあります。患者さんは薬でつながっているから減らない。一度通った人は通い続ける前提というのが怖い考え方だなと感じました。2週間に1回通ってくる人が2000人いると1日あたり100人になります。それで満員ということになりますよ。
      3つの精神科・心療内科の立ち上げに関わりましたが、積極的に治していこうとすると経営的に厳しくなるのもあるんですよね。僕が担当していた頃は「常に満員なら経営が成り立つ」「いつでも新規の予約が入れられる」の両方を両立していた覚えがあります。患者さんとの距離が近くなるとこの矛盾したような要求にも応えられるようになります。やり方は実行するのが難しいので公開できませんが、患者さんが予約の時間を短くすることもずらすことも喜んで合意してくれるように(1)早々に元気になってもらう(2)深い信頼関係を築くができていれば、実行可能になります。
      混雑していることと患者さんへの気持ちが薄くなることは関連しないです。熱く語ってしまいましたが、公認心理士法が通り、医療が最後の砦になるならこうあってほしいと思います。薬を配るための助手が増えたということにならないでほしいですね。

  2. 人の心を治せるのは人の心だけです という言葉に「グッ」とくるものがありました。薬ではなく環境でもなく、人の心が治すというのがその通りだと思います。最近大学の仕事と本を書くことに追われていますが、参加したいです。

    1. Author

      5年前くらいまでは「人の心」という言葉が通じたものですが、最近ではあまり通じなくなりました。多様性によって、自分の人生を選べるという価値観から、「人を助けたい人」「お金を儲けたい人」「自由に遊びたい人」が対等になってきているようです。目の前で倒れている人がいても「助けたい人が助けるもの」と考える人が増えているようです。
      「お金を儲けたい人」は医療をビジネスとして利用しますよね。正当なビジネス行為として。資本主義なのでビジネスが上手な人が集めたお金を還元するのが「人の心」結果が出せない愚直な愛情は「人の心ではない」と言われているように感じることさえあります。それはサービスにしてはいけないものをサービスにしていった結果だと思います。精神科領域の人がビジネスをしようとしたらそれは「人の心を治せるのは薬です」となりますよね。ベッドの上で孤独に苦しんでいる人が元気になる薬があるとしたら、ドラッグと呼ぶような気が僕はしています。

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