傾聴対談:元刑事の僧侶からみた「聴く」とは?



大島龍穏
1946年東京生まれ。 65年、神奈川県警の警察官となる。 県警本部機動捜査隊、捜査一課、捜査三課を経て、2000年、横須賀署刑事一課強行犯係長の時に退職。翌日から日蓮宗の上人に師事して修行を始め、2003年5月、信行道場を成満して僧侶となる。 現在、神奈川県にある自宅を拠点に僧侶としての活動を行い、無料相談所「道しるべ」で無料相談をして多くの人々の相談に乗っている。


岩村 剛
日本心理療法協会カウンセラー。禅の修行に取り組む傍らビジョントレーナー、カウンセラー、コミュニケーション講師として活動している。
​岩村剛サイト】Rockvillage.site


 1.心の扉が開く瞬間。


岩村:大島さんこんにちは。本日はよろしくお願いします。

大島:よろしくお願いします。

岩村:大島さんのこの本、「定年出家」(※1)を読ませていただきまして、なぜ鬼刑事が僧侶になったのか。この本を読んで大島さんの人生はそういう導きが用意されていたのではというように僕には感じましたね。

大島:それはそうなんでしょう。でもそれは私だけではなく、みなさんそういう導きのもとに人生を歩んでいるんだと思いますよ。

岩村:そうかもしれませんね。刑事時代の色々な話も興味深いのですが、僕が一番印象に残ってるのが少年院の篤志面接員(※2)になった大島さんが、自宅で介抱していた猫のクロちゃんを亡くした時に、何回面接しても全然話をしてくれない少年との面接のところですね。(※3)あの日を境に少年は変わり始める‥。

大島:半年以上も口を開かなかった子でしたね。「僕も猫を拾ってきて育てたことがある。その猫がいなくなった時は寂しかった」それでお互いのつながりが出来ていく。その子も「ああ、この人になら話をしてもいいかな」とこう話し始めた。これはもう大きなインパクトでしたね。自分でも狙ってるわけじゃない。

岩村:そうですね。全く意図していないところで話が展開していくっていうか、心開いてくれたっていうか。

大島:なんでもそうですけど、聞いてやろう、聞いてやろうとすると聞けないんですよ、だいたい。何気ない会話のなかでぽっとでた話を上手に拾うことができるかできないか。
傾聴活動ってみなさんの話をほとんど一方的に聴かせてもらうわけでしょ。そこに自分の意見を入れたり世間ではこうだとか言ったりすると、相手はかえって引いてしまう。だから聞きたい話も聞けない。じゃなくて一方的に「こんな辛いこともあったんだよ。こんなにやだったんだよ、こんなに悲しかったんだよ」「そうですよね」と相槌を打つぐらいで聴かせてもらうと、言ってるほうは段々、段々気持ちがこう、ゆるやかになってきますよね。それが傾聴の最も大事な事だと思う。

(※1)大島さんの本「定年出家」

 

 

 

 

 

 

(※2)篤志面接員(法務省「篤志面接委員制度」)http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse09.html

(※3)猫のクロを亡くして「大切にしていた猫が亡くなってしまって、悪いが今日は君と話す気分になれないんだよ」という話から、それまで何回面接しても口を開くことのなかった少年が「僕も昔猫を拾ってきたことがあったんだ‥」と口を開き、そして自分の過去を話し出すシーンがある。【「定年出家」180ページ】


2.大島さんにとっての「聴く」とは?


岩村:大島さんにとっての「聴く」ってどういうことなのか伺えますか?

大島:真実を出すこと。その人の核になっているものを浮かび上がらせる。
そうしないとね、元が悪けりゃすぐ戻っちゃうんですよ。いつも言ってるんですけど、木で言えば幹と根っこが大事なんですよ。枝とか葉っぱとか花とかは次の次の問題ぐらいで。木の根がしっかりとはりついているのは、途中で切られたってまたでてくる。

でも幹が倒れちゃって根っこだけあったって本体が倒れちゃえば終わりでしょ?だから根っこを大事にして幹を大事に考えて、ここをしっかりしておけばあとは枝葉の問題なんです。どういう枝が生えようがどういう葉っぱがなろうが何しようが、元さえしっかりしてればいいわけです。元がダメだからいくら言ってもこりゃ駄目ですよ。

基本ができてなきゃダメ。砂の上にお城を築くようなもので、一回くりゃすぐ崩れちゃう。だけど砂を掘ってコンクリートで埋めて立ち上げたら粗末な家のつくりだって崩れない。その作業をしないと本当のところはできないですよね。

岩村:再犯を繰り返すような人だったら、根本からやり直させる?

大島:そうです。「もう参りました。こんな馬鹿なことはしません」というのをしっかり植え付けないとまた繰り返しますよ。さっき言ったようにちょっと苦しいことがあると「あー俺はどうせ前科者だからよ」ってそういう開き直ってしまう心があるうちはどんなに周りが支えてもダメです。「前科者がどんだけいい男になれるか見返してやろうじゃねえか」って気持ちのあるやつはどんなに言われてもやり直せる。

でも人間て弱いからそうやって虐げられてくるとね、「あーやっぱりダメだ。俺はダメなんだ。どうせダメなら死ぬまで面白おかしく生きてやろう」って思うからまた犯罪に手を染めてしまうでしょ。でもそん時に「そう言えば大島がこんなこと言ってたな」っていうことをちょっとでも思い出してくれると、少なくとも小さいブレーキにはなるね。それが大きければ大きいほど、効いてくるわけでしょ。


3.「同行二人」

岩村:弘法大師の「同行二人」て言葉ありますよね。その場には一緒にいないかもしれないけど、見守ってくれる人であったりとかそういう人の存在って大事なんだって、今の話はその話に重なりますね。

大島:同行二人て弘法大師がいつも一緒にいるよって、それは偉い坊さんじゃなくたって、亡くなっていった親だとか兄弟だとか自分の中のいい友達だとか連合いだとか、亡くなっていけばその人がいつも後ろにいてくれるんだよって話、私するんですよ。今は別れてとってもつらいかもしれないけど、目に見えない、音に聞けないけれどもいつもここにいてくれるんだよ。同行二人と同じです。ですから、そういう気持ちさえしっかりしていれば、何かこう手を出そうとすれば後ろから「やめろ」ってそれが声として実際に聞こえてくる人もいればね、姿として見える人もいれば、「あ、こんなの関係ねえ」って人もいるわけで。でもそれは、私は必ずそういうことってあるんだろうなと思いますね。
いい事も悪い事も私は必ず仏様が見てくださる。もう自分がもうそろそろいいよっていう時にはあの世に行くんだと思いますね。

岩村:同行二人みたいのがあると、再犯率も下がるのかなって気がしますよね。

大島:絶対ありますよ。ただそれを信じられない人には見えないですよ。

岩村:その違いは大きいですね。


4.大島さんと「両親」

岩村:この本にも書かれてますけど、大島さんはご両親が血の繋がっていない方だという‥それを知ったのが警察の試験を受ける時に戸籍謄本が必要で、そのタイミングでご両親が話されたんですよね。

大島:高校3年の時。脳天気だからそんなこと全く疑わなかった。周りの親戚も全部血の繋がる人だと思ってました。

岩村:誰も言わない?

大島:誰も言わない。偉いでしょ?

岩村:凄いですよね!

大島:本人は全く知らない。青天の霹靂でしたね。でも、それでダメになっちゃうヤツはダメになっちゃうね。ひねくれて。私の場合は時期的にも良かったのかもしれないし、私はかえって親父、おふくろに感謝しましたよね。だって育ててくれなければここにいないわけですから。親を恨むような気持ちはこれっぽっちもなくて、ありがたかった。言葉じゃ言い表せないくらいの気持ちでしたよね。

岩村:すごい印象的なのは結婚式の時と育ててくれたお父さんが亡くなった時の話(※4)。結婚式の時は育ててくれたお父さん、お母さんからの愛情ってのがものすごく伝わってきたのと、お父さんの死は大島さんがどれだけ大切に想ってたかっていうのがすごい伝わってきた感じがしますよね。

大島:やっぱり刑事やって人の死ってのがいつもこう身近にあったんですね。父親は蚊に刺されてもバンドエイドを貼るような人だったんですね。医者も「手術する必要がない」って言ったって「いやできるならやってくれ」って、死ぬことに関しては恐れをもってたというかね、その分大事にしたいが為にせっせと医者通いをする人でしたね。

あんなに恐れていた死がね、倅のここにこう腕を回して、私がおさえて「大丈夫だよ、もう息苦しいの止まるからよ」って‥おとなしくなった。「ほら、終わったじゃねえか」ってふっと見たら口をパカって開いてたから「あーこりゃ逝っちゃったな‥」って。まるでほんとに、この部屋から隣の部屋にスッと行くように亡くなったんだね。

あんなに死を恐れてた親父が、こんな簡単にしかも倅に肩抱き抱えられてね、死んでくなんて。こんな死に方あるのかなっていうくらい‥感銘を受けたというか、死ぬっていうことはこういうことなんだって教えてくれたんですね。

岩村:理想的な亡くなり方ですよね。

大島:いやもう、親父みたいな死に方できないと思いますよ。倅に抱かれて死んでくんですよ。

岩村:最高だと思いますね。

大島:だからきっとね、生前にはいい事してたんだなって。事実、人のためには一生懸命やってた父親だったから。

岩村:大島さんの今までの人生の中でどの人との出会いが一番大きかったですか?

大島:ですから、1番の出会いは両親ですよ。

岩村:ですよね!やっぱり、そりゃそうですよね。

大島:あの両親がいなかったらもうとっくに死んでるわけです。育てるのがいないんだから。それを拾って育ててくれたわけです。オギャーと産まれてすぐに実の両親がいなくなっちゃってますから。

岩村:結局はそれはわからない?

大島:わかんない。知ろうと思えば知る手立てはあったんですけどね。知りたいと思わなかった。テレビの番組で「探しますよ」って企画もあって探せば何か分かったのかもしれませんが、それをやるのは私の大事な両親に対する冒涜だと思ってましたから断りました。

やっぱり出会いというのは、両親、それから連れ合い、子供、要は家族単位の小さなものからのスタートで、それからいろんな人々と出会っていくわけですから。そこから広がっていって、同僚から先輩から上司から今現在でつきあって頂いてる人がいっぱい居るんですよ。でも根本は家族ですかね。

岩村:ご両親?

大島:両親だね、なんたって。1番ですかねえ。

大島さん、貴重なお話いろいろとありがとうございました!

(※4)【「定年出家」100Pから105P】「結婚式の夜」と「おやじの死」のところに大島さんとご両親のその時の様子が描かれています。

インタビューの一部を載せました。

 

対談記事には載せていない内容の動画です。
刑事の取り調べの内容から、経験や「在り方」の重要性が垣間見られ「傾聴においても重要だな」と感じた部分でした。

 

10件のコメント

  1. ご両親と血の繋がりがないことを受け止めて、だからこその家族を大切に想う気持ちが、ほんの少しだけわかる気がしました。嘘は、よくないことであるはずなのに、大島さんを包む優しい嘘が、結果的には血の繋がりよりも強い愛の証になったのかなぁ、と(*^^*)

    【だめ】という言葉が目立つのに、何というか…
    虐げられる気持ちにも理解をみせる深みが印象的でした。ありがとうございました。

  2. まず、一番上のお二人の笑顔の写真がすごくいい😊
    幸せな気分になる感じ。好き❤️

    大島さんが、猫の黒ちゃんが亡くなった話をしたら、半年間口を開かなかった少年が話したという話が印象的だった。
    ふとした本音が、少年の心に入り、自然と猫を拾ってきた話を始めたんだろうな。心がつながるコミュニケーションって、力を抜いたところから始まったりするんだろうなって思った。
    あと、思ったのは、根、幹、とか土台が大切で、枝、葉っぱではない。ついつい表に見えるところをなんとか。。。と思いがちだけれど、土台しっかりしてれば、それでいいのかな。あとは自然にというところで、力を抜いて、その成り行きを楽しんでいける「おおらかな気持ち」になりたい😊💕
    いろいろ大切なことを感じるインタビュー記事をどうもありがとうございます❤️

    1. 「話す気になれない」と打ち明けて少年が話す気になったというのが逆説的で面白いですね。なんか天の岩戸伝説に通じるものを感じます。人の心って、不思議ですよねー。「出てこい、出てこい」と言われると出たくなくなり、「出てこなくていいよ」と言われると出たくなったり。
      猫のクロちゃんは本当に仏様だったんだなぁー。

    2. 私も
      「なぁーな」さんの「ふとした本音が、少年の心に入り」「心がつながるコミュニケーションって、力を抜いたところから始まったりするんだろうな」という表現、
      「傾聴寅」さんの「『話す気になれない』と打ち明けて少年が話す気になった」「なんか天の岩戸伝説に通じるものを感じます」「人の心って、不思議ですよねー『出てこなくていいよ』と言われると出たくなったり」という表現、
      いずれも、傾聴の神髄みたいな感じで受け止めました。

      インタビュー中の「なんでもそうですけど、聞いてやろう、聞いてやろうとすると聞けないんですよ、だいたい。何気ない会話のなかでぽっとでた話を上手に拾うことができるかできないか。」
      正にこれですよ!と膝を打ちたくなるような、読んでいて嬉しくなるような言葉でした。

      聞かずして聞くというような、息子とも、ゲームやSNSを勝手にやりながら、ぽつりぽつりと話しているうちに、何か様子が伝わるような瞬間があります。一方で、がっぷり四つで、聞くから話してみて!ってやると、なかなか何気ない核心にいつまで経っても辿りつけないことがあります。

      そんな、ふわりとした、さりげなさの延長線上で、傾聴と言えるのか言えないのかも分からない、自然体の傾聴の先に「みなさんそういう導きのもとに人生を歩んでいるんだ」という境地が味わえるのかもしれないなと!^_^

  3. 素晴らしいお話でした。木の幹に例えられたお話が印象に残っています。学歴や収入や能力など、おそらく枝葉であろう部分で悩み、苦しんでいる人が多いと思います。幹である存在そのものを大事にしたいなって思いました。

    1. この木の例えから、土台とか基礎ってやっぱ大事だなーって思いました。なんだか最近の風潮は小手先の部分、いわゆる枝葉ばっかりが目につく気がしてなりません。「楽して稼げる‥」とか、「すぐにできる」みたいな。忙しい世の中だから致し方ない部分はありますが、それで大切なものを見失ってるようにも感じますね。

  4. 今の思春期の子供達
    昔は、家族揃って食卓を囲み
    話しや近況を共有していた。
    昔の世の中は、地域の人も
    家族の様に見守りがあった
    今は、核家族化し、その上学校でも
    居場所がないとなると
    孤独なんだと思います
    どうにもならなく外で万引き、他人の教科書
    窓から投げ捨てる
    恐喝、自分より弱い子にパシリなど
    問題行動になるのだと思います
    警察も補導や逮捕し、問題起こした子に
    『悪い子』というレッテルを張るだけ
    先生も『問題児』というレッテルを張るだけ
    警察さんこそ、逮捕や補導の後問題をした
    背景を聞いてあげて欲しいです。

    1. たしかにそうですね。「悪いこと」の裏側にあるものがなんなのか。「悪いこと」をした子供には「悪いこと」をする子供なりの理由がある。その理由を理解し共感したうえで、そこに「悪いとこ」があるなら、それはしっかりと改めさせる必要があるなと思いますね。

  5. 幸せそうに隣にいるという世界が見える気がしました。同行二人 お父さんを送るときの描写が心に残りました。ありがとうございました。

    1. 死んでいなくなるんじゃない。死んで(そばに)居るんだと。大島さんのそばに、ご両親は居るんだなぁって思いますよね。

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