「ネット依存」の少年が教えてくれたこと

「ネット依存」の少年が教えてくれたこと

 

1 ネット依存とは?

ネット依存とは、「勉強や仕事といった生活面や体や心、健康面などよりもインターネットを優先してしまい、自分をコントロールできなくなっている状態」をさします。全国に成人のネット依存者は、270万人とも言われているそうです。

今やインターネットは、私たちの生活から切り離すことができないものとなっています。とてもすばらしいものではあるのに、深刻な問題にもつながる恐ろしさもあるインターネット。

私は、ネット依存というと、ある少年のことを思い出します。今日は、その少年のことを振り返りながら、ネットに依存してしまう人について思いを寄せたいと思います。

2 ある少年の思い出から

1)出会い、トラブル

その少年に出会ったのは、少年が高校生のときのことでした。出会ったときの彼は、下をうつむき、視線を合わせず、いかにも「ゲームばっかりして不健康な感じだな…。」という表情だったように思います。そして、しばらくすると、さっきまでいたのに姿を消してしまいました。「しまった」と思って探しましたが、すぐには見つかりませんでした。

その後も、脱走、行方不明、家族への暴言、家出、金銭、昼夜逆転等のいろいろなトラブルは続きました。その原因は、オンラインゲームにかかわることが殆どで、「イベントに参加したい」「アイテムがほしい」といったスイッチが入ると、もう、周りのことなど何も見えなくなってしまう様子でした。

2)大好きなもの、大好きな人

もちろん、一番大好きなものは、オンラインゲームです。対人不安のある彼が、オンラインゲームの話では饒舌になり、そのギャップには違和感を覚えました。

彼と出会って3ヶ月ほど経った頃、私は、「ネトゲ廃人」とう本を見つけました。当時、話題になっていた本だったように思います。インターネットゲームに依存してしまい廃人のようになってしまった人のエピソードが書かれているような本でした。まさに、ネット依存による廃人です。その少年に本を紹介すると、彼もその本に興味をもち、その後は、その本を見るために私のところにやってきてくれるようになりました。トラブル続きの中ではありましたが、この本を通して、一緒に楽しめる時間をもてるようになりました。

また、その少年には、大好きな人がいました。それは、オンラインゲームの中で知り合った人で、ゲームを通して信頼していたようです。彼は、「〇〇さんが、□□と言っていた。」「〇〇さんに聞いてみる。」と実際の先輩のように世の中のいろいろなことを教えてもらっていました。その頃の彼は、実際の生活の中で出会う大人よりも、ゲームの世界で出会った〇〇さんの方が、価値ある大人だったと思います。

3)夢に向かって

彼の夢は、インターネットを使った仕事をすることでした。専門学校の見学に申し込んだのに怖くなって行けなくなったり、ハローワークに行って世の中の厳しさを知ったりしながら、少しずつ大人になっていきました。残念ながら、高校卒業時、彼は、ネットの世界での就職はできませんでした。

けれども、その後、その少年は、数年かけて夢をかなえました。小さなネットショップの店長になったということです。「おもしろいです。」と報告してくれる彼は、もう、ネットに依存するのではなく、ネットを使いこなしているようです。

3 彼の変化を引き起こしたもの

私は、ドクターではありませんので、彼がネット依存であったかどうかについては、断言することはできません。ここでは、依存かどうかは別として、ネットによるトラブルという生き方から、充実した生き方へと変化を起こした原因はなんだったのだろうと考えます。

1)夢をもっていたこと

彼の夢は、とにかく、インターネットにかかわる仕事をすることでした。「都会に行って仕事をするんだ」とか、「ホームページを作るんだ」とか、「自営でする」とか、現実の厳しさはさておき、やりたいことを沢山教えてくれました。「自分をコントロールできないのに、無理でしょう!」とやりとりしていた彼が、まさか、本当に夢をかなえてしまうとは…。今は、その仕事をするために、一生懸命のようです。本当に夢をもつことの意味は大きいと思います。

2)「世界観」を理解してもらえる人に支えられていたこと

彼には、たくさんの人が愛情をもってかかわりました。ネットの話を聴いてくれた人、ネットの大学のレポートの指導をしてくれた人、就職先につきそってくれた人、熱い中汗を流してキャッチボールをしてくれた人、真剣に叱った人、そしてご家族、とたくさんの人が彼を支えました。いろいろなかかわり方がありましたが、その誰もが、「彼はインターネットが好き」ということを認めていたように思います。もちろん、トラブルに対する毅然とした対応はされていましたが、それでも、彼の「世界観」は、何か特別なものとして、大切にされていたように思います。

3)主導権を取り戻したこと

ネットのトラブル続きの頃の彼の生活は、完全にネットに主導権がありました。けれども、今の彼は、彼の意思でネットを使いこなしています。ネットに対する主導権は彼にあるのです。
主導権をどのように取り戻したのか・・・。それは、特別なテクニックというより、夢をもち、その中で人とのかかわりが充実していく中で、自然と変わっていったように思えます。

 

最後になりますが、少年の母親は、彼のことを心配しながらも、彼の今の姿を見ることなく天国へと旅立たれました。彼は、母親が亡くなったと聞いたときにも、「インターネットの方が大切…。」と言っていました。でも、彼は、母親が家族で行きたいと言っていた北海道の写真を、お別れの前に棺の中に入れました。インターネットで画像を探して…。

母親の死という重大な局面でも、インターネットは、少年にとって影になるものであり、同時に大きな光になるものだったのです。

天国とネットで繋がっていたら、お母さんに今の彼のことをメールで報告してあげられるのになあと思います。

※本人の許可を得てこの記事を書かせていただきました。

6件のコメント

  1. ネット依存とは、「勉強や仕事といった生活面や体や心、健康面などよりもインターネットを優先してしまい、自分をコントロールできなくなっている状態」と定義されており、まずパッと息子のことが頭に浮かんだが、依存とまで言える状態なのか、なんとも言えないなと今は感じています。
    最初小学生の頃に「ゲームばかりして」と感じた時は、どうしたら、ルールを決めて限定的にできるのだろうか?誘惑に勝てるのだろうか?と親としては随分気をもみました。本人も誘惑に勝てない自分を責めて、パソコンやゲーム機を使えないように物理的にしてみたり、色々な試行錯誤と闘いがあったように思います。
    ただ、その闘いと葛藤の成果なのか、「僕は情報部に入って本格的にやりたいんだ!」と明確に意思表示をし、「だからと言って、引きこもって現実世界から離れたいわけではなく、むしろたくさんの友人たちとの現実世界と関わりながらやっていきたい!」
    そして、「これを好きなこととして、なんらか仕事としてやっていきたい!」というようなことを言い出した。
    ある時から、「好きなんだから、やいやい言うより、とことんやらせてみよう!、それで勉強や友人関係がダメになるなら、それは彼の責任。可能性?を信じて好きにやらせて、やいやい言うのをやめよう」と思ったことが、良かったのか悪かったのか。。
    ネットリテラシー。彼を見ていると、自分などの方がよっぽどリテラシーが不足していて踊らされているようにも思う。中々に何が良くて悪くてということが分からない世の中になっているなあなんて、変な感想を覚えたりして。。
    いつも我田引水的な感想ですいません!^_^

    1. Author

      かずさんへ
      かずさんのコメント読んで、もう一度、夢をもっているということについて考えてみました 夢は大切だなと思う一方で、叶うか叶わないかということがテーマでもないかなと

      息子さんの、情報部に入りたいとか、仕事としてしたいとかのように、したい!という気持ちをもてることが大切 好きなことがあるから、一人の人間として扱ってもらえる それが大切
      夢というのは叶えるためにあるというより、したいとか、好きということ自体が大切で、それが一人の人の輪郭をはっきりさせるのかなぁと思いました

      夢 なんだろう?🌼

  2. なんだか泣けてきてしまいました。私は母親という立場なので、どうしても少年のお母さんの立場で読んでしまいます。どんなお母さんだったのかなぁ。
    少年が最後に入れてくれた写真にはどんな思いが詰まっていたのかな。
    たくさんの支えてくれる人、これは本当に大事ですね!うちの子もこうしたい、と言ったとき、いろんな大人の方が協力してくれました。協力してくれた方には本当に感謝しています。出会いで人生は変わっていきますね。この少年の人生を応援したいです。

    1. Author

      サランさんへ
      少年とお母さまに思いを寄せていただきありがとうございました。

      お母さまは、素朴で優しい方でした。「おにぎりを作って食べさせたいですね。おにぎりが好きなんです。」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

      「もし、彼のことが解決したら、家族で北海道にいきたい。」ともお話しされていました。もしも、本当に行くことができたら楽しい思い出ができたことと思います。現実に行くことはできなかった夢でしたが、せめて、北海道の写真がお母さまに届いていたとしたらなあと思います。

      少年は、どんな気持ちで写真を入れたのか…。彼に聞いたことはありません。言葉の代わりに、何をお母さんに伝えたかったのでしょうね。
      考えてみると、お母さまが夢をもっていらしたことも、大切なことだったなと思います。

      サランさんのおかげで、私も、少年だけでなく、改めてお母様のことを考えてみることができました。お母さまの優しい笑顔を思い出しています。ありがとうございます。

      サランさんのお子様も、たくさんの方に支えられて成長していかれているのですね。「こうしたい!」という夢や目標をおもちとのこと、ぜひ叶うといいですね。
      ささやかながら、私も応援したいです。

      そして、母親として、感謝をもってそれを見守っていらっしゃるサランさんのことも応援しています。

      ありがとうございました🌼

  3. 素敵なお話をどうもありがとうございます😃
    こういうこともあるんですね。
    インターネットしてるから、トラブルが起こる。生活が混乱する。夢はあり、大きいけれど、人が怖くてどうしたもんだろう??って感じであるが、そうした中で、インターネットの話や本で支援者とかとつながる。
    やっぱり、好きが持ってる力はすごい😆⤴️⤴️⤴️
    彼にとって、好きなインターネットの持ってる本質はなんなのかを掘り下げ理解し、強み・好きを信じきる力が、支援者には、求められ、好きを活かして支援していくかを学べた。
    心に残る話でした。
    どうもありがとうございます❤️

    1. Author

      なぁーなさんへ
      すてきな話、心に残る話 と、思ってくださり、本当に嬉しいです ありがとうございます
      なぁーなさんのコメントを読んで、少年の教えてくれたことが、よりはっきりとわかりました
      本人にとっては、自分の好きをとことん信じること、支援者にとっても、その人の好きをとことん信ること が、大切なんだと思いました 「信じきる」いい言葉ですね!
      なぁーなさんのおかげで、このことに気づいたので、タイトルを少し変えました

      私は、何度ももうだめかもと思いながら彼とかかわっていたことを思い出しました でも、なぜか彼のひたむきさにひかれ、彼のことが大好きでした そんな彼のエピソードに、コメントいただいたこと感謝します ありがとうございました🌼

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