トラウマ

トラウマ

日常的に体験する嫌な思いは頑張って乗り越えたり、誰かに聞いてもらうことで解消することができます。一方で非常に大きな苦痛を味わってしまうとその傷が消えなくなってしまうことがあります。それをトラウマと呼びます。最近ではトラウマという言葉を安易に使う人が増えているので、広義のトラウマは「自分としてつらかったこと」くらいの意味合いで使われていることもあります。

 

1.トラウマの例

震災などで家が倒壊してしまった現場にいたり、目の前で家族をなくしたり、抗えない自然の脅威に直面するとそれがトラウマとなることがあります。交通事故などにあって悲惨な現場に遭遇してしまったり、虐待をされる、DVを受けるなどが原因でトラウマになることもあります。

そして、そのトラウマが一定期間以上続いて日常生活に支障がでるようになるとPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ばれるようになります。PTSDには主に以下の3つの症状があります。

1)過覚醒

極度な緊張状態が抜けなくなってしまったり寝られなくなってしまうなどの覚醒状態が続くことがあります。

2)回避

トラウマと関連がある場面や単語、発想などを無意識的に避けるようになります。自分自身で回避していることに気づけないこともあります。

3)フラッシュバック

ショックを受けた場面が脳内で再生されてしまいます。

その結果として、不安が強くなったり、マイナス思考、ぐるぐる思考、感情のマヒなどが起きます。

 

2.トラウマのケア

トラウマのケアには段階があります。

初期には物理的な安全の確保、衣食住などの基本的な環境を整えることが重要になります。被災地に駆けつけたカウンセラーがいきなりトラウマキュアなどをしようとすることがありますが、このタイミングでは多くの人がトラウマを扱うことができません。それよりは忙しく復興作業など何かの作業をしていた方が良いことが少なくありません。

中期には経済や生活の支援が必要になります。自立した生活に戻るための準備です。

そして、後期には自立支援、就職支援などとともに心理的なケアが必要になります。

1)安全感覚の確立

トラウマのケアの基本になるのは安全感覚の確立です。フラッシュバックや不安な時に必ず誰かが助けてくれる。理解者がたくさんいる。そんな安全であるという感覚を身につけることがケアのベースになります。いきなり問題に向き合うのではなく、安全地帯を作るのです。心理カウンセリングのアプローチによっては心理的な安全地帯を作ることを得意とするものもあります。それらを駆使して、まず命綱にあたるもの、安全地帯を作ります。

2)解釈の整理

「自分だけが生き残ってしまった」「自分が身代わりになればよかったのに」「これは何かの罰なんだ」トラウマはインパクトが大きすぎて冷静に受け止めることができません。過剰に自分のせいにしたり、神様のせいにしたりと日常生活ではしないような解釈をしてしまいがちです。その解釈はその人の心が壊れてしまわないように守ってくれているものである一方で事態を混乱させています。安全感覚が確立したらトラウマの原因となった出来事をどのように解釈したら良いかを整理します。

3)リソースの向上

心理的なスキルを向上させたり、自分自身を安定させることでリソース(問題に対処する時に役にたつ性格、資質、スキルなど)を向上させ、トラウマに対応できるチカラを養います。

4)トラウマキュアのワーク

トラウマとリソースそれぞれに重み付けをします。トラウマの規模を小さくし、リソースの規模を大きくするような処置をしてから、それぞれの体験をぶつけます。それぞれのエネルギーが大きいので大手術のようなワークになりますが、カウンセラーが重み付けを微妙に調節しながらそれぞれが大きすぎないようにして統合します。本来は10年20年後に「あの出来事も人生の彩りのひとつ」と心の底から言えるまでに成長するとしたらそれをカウンセリングの技術で生み出すことができます。

このワークは失敗できないので強力なリソースの確立や心理カウンセラーによる条件付け、重み付けを秒単位で制御するチカラなどが必要ですが、成功すればトラウマが人生の糧に昇華します。

使用条件、タイミングなどが難しいワークですが、これが功をそうする思いトラウマを抱えた人には貴重なアプローチと言えます。3.11の震災のニュースが流れた直後、神戸の震災の被災者の中でフラッシュバックする人が多発した時などにはこのワークにカウンセラーもクライアントさんたちも救われました。

 

3.トラウマの向き合い方

狭義のトラウマは触れることができません。本人も蓋をしてしまって、それがあることを自覚できなかったり、蓋を開けたら意識を保っていられないので触れられないのです。そういう意味ではトラウマに向き合う時には安全を確保するだけでなく、「トラウマの対処をしよう」と気負うのではなく、トラウマに触れただけでも大きな一歩と考えるスタンスが重要になります。

触れられなかったトラウマを言語化できたり、想起できるということは抑圧されて変化しない状態になっていたものを風化されてしまうような場所に移動したような効果があります。一度、言語化することができれば時間とともにトラウマが風化していくことも期待できますし、他の心理療法を使いやすくもなります。

ただ、最初に蓋を開ける時には十分な安全と時間を確保し、心理的な安全地帯に誘うための条件付けなどを念入りにしてから行うようにすることをお勧めします。上手に蓋を開けなければ症状を悪化させてしまうからです。

 

 

15件のコメント

  1. 「トラウマ」という言葉は少し仰々しい言葉に思われがちですが、自分にとって辛いと感じ始めた瞬間から少しずつ自分の心身を脅かしている可能性があるのですね。
    トラウマに陥ってしまう人は、本来責任感も強くて優秀な人が多いので、自分だけで解決しようと思うが故に苦しんでしまう現状が多いと思いますので、そういう人こそ、すぐにフォローできる環境やカウンセリングが必要だと思います。

    1. なるほど、「本来責任感も強くて優秀な人が多いので、自分だけで解決しようと思うが故に苦しんでしまう現状が多い」かもしれません。
      新たな気づきをありがとうございます。
      そんな方をフォローできるあり方がこの講座にも必要かもしれないと思いました。

  2. 「トラウマ」の真の定義は難しそうですよね。
    当方、鬱病で病気休職中に、人手が足りないからと無給での勤務を4ヵ月強いられたことがあり、それ以来嘔吐が頻発するようになりました。精神科とカウンセリングを受診しましたが、結局「PTSDであるか否か」という結論はでないまま。
    カウンセリングで当時の体験を話そうとすると遮られ、話題を対症療法の話に変えられたので、何のためのカウンセリングだったか今も分かりません。

    1. Peteroさん、そんなご経験をされたんですね。
      休職中にも関わらず無給の勤務、頻発する嘔吐、当時の体験の話を遮られ、対処療法を押し付けられる、
      今、私が想像するだけでも、悲鳴を上げたくなります。
      そんなカウンセラーが少しでも減り、信念のあるカウンセラーが増えるために、私たちは頑張っています。

  3. 私はトラウマにより、あまり他人には心を開かず自分の中に溜め込んでいました。
    今は精神科でお薬だけの治療をしています。
    フラッシュバック的な事があっても頓服を飲み・・・何も解決していません。
    誰かに聞いてもらうことにより改善されるかも知れないと知り、少しだけですが話す勇気が出ました。

    1. 少しだけ話す勇気が出たんですね。
      こちらに、コメントしていただいてありがとうございます。
      それが私たちの力になります。
      あせらず、ゆっくり改善の方向に向かうことをお祈りしています。

  4. 二重投稿になっていたらごめんなさい。
    被災地で震災を体験し、未だにサイレンに過剰に反応を示してしまいます。
    更に雪道で交通事故に遭い、凍結路面がまったくダメになってしまいました。おそらく、軽いPTSD状態です。
    話を聞いてくれる家族がいるため、なんとかなっています。感謝しようと思いました。

    1. どんぐりさん、コメントありがとうございます。
      被災地で震災を体験されたとのこと、私には想像がつかないほどのご経験をされたのかなと思いました。
      お話しを聞いてくれるご家族がいらっしゃるんですね。
      そんなご家族に対する感謝の気持ち、私ももちたいと思いました。

  5. 震災発生時、地元である被災地で生活をしていましたが、被災はしませんでした。
    地震の揺れ、その後の津波、住み慣れた町が壊れてしまったこと、全てが衝撃でしたが、被災した方々のなかで、被災していない自分が、悲しさなどを口に出すことはできませんでした。
    その後、身内の不幸が続いたり、事故に遭ったりと、この7年間で大きなショックが続いていて、トラウマだらけで軽くPTSD状態にある気がします。
    幸い、心内を話せる家族や友人がいるので、なんとか頑張っています。
    夫婦で傾聴スキルを身につけ、今以上に互いに支えられるようになりたいなと思いました。

    1. Author

      震災に会うとそんな気持ちになるんですね。教えていただいてありがとうございます。
      心内を話せる人がいる。それが生きる上でもとても大事だなと改めて感じました。

  6. トラウマというほど重いものではないかもしれませんが過去に起こった嫌な出来事というのは今でもふとしたきっかけで思い出すことがあります。そう考えると震災などで日常生活に支障をきたすようなトラウマを抱えている人がどれほど辛いか計り知れないですね。

    1. トラウマをお持ちの方は私よりもずっと 言葉に表せないような辛いお気持ちになると思います。エムアイさんのそのご経験が誰かの助けや支えになるといいです。

  7. トラウマ克服するには時間がかかるとは知っていたけど誰かに話すとかも有効で段階を踏んでいかないといけないとは知らなかった。
    自分もトラウマの事は心許せる人には話せるけど消化しているかと言われたらまだまだ。でも話せる時点で進展してるんだと安心した。

    1. ご自身のトラウマを話せるまで進展しているんですね。確かに時間はかかると思いますが、ご自身の中にあるお気持ちが少しずついい方に向かっていることが分かると、消化へ向かっていることも分かるかもしれません。

  8. トラウマか‥。自分自身を省みた時、あるような、無いような。。正直有意識では自覚がなく、無意識レベルでもしかしたらあるのかも‥と感じています。

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