1 傾聴の基本とは?


1 傾聴の基本とは?

普段の会話はお互いに五分五分の関係であることが多いですが、傾聴では100%「話をする人」を中心にします。なぜなら、五分五分の状態だと遠慮したり、相手に合わせてしまって出せない部分が人にはあるからです。100%自分の時間として関わってもらう事で個人的な問題、個人的な世界観に向き合う事をサポートします。


1.世界観が違う前提で

同じコミュニティーに属している人や立場が近い人は比較的近い世界観を持っています。しかし、自分と立場が違う人やマイノリティーと呼ばれる状態になっている人は世界観が大きく異なります。その異質な世界観に寄り添うのが傾聴の基本です。

 

1)例えば「左利き」

皆さんは「右利き用」に作られたものをどれだけたくさんいえるでしょうか?右利きの人にとっては当たり前で空気のような存在が左利きの人にとってはそうではありません。

右利き用にできていて左利きの人が使いにくいもの

  • ハサミ:左利きの人は力の入れ具合が逆で上手く切れない。左利き用もある。
  • 自動改札:通過するときに手がクロスしてしまう。
  • ATM:入力部分が右の端にあることが多いので入力しにくい。
  • おたま:スープ用の先が細くなったおたまは逆向き。
  • 横書き:文字を書いたところを手で擦ることになるので真っ黒。

  • 急須:方向が逆なので上手く注げない。
  • 蛍光ペン:平たくなっている角度が右利き用。
  • ゲームのコントローラー:左右が逆
  • クリアファイル:半円形に空いている穴が裏側になってしまう。
  • 自動販売機:お金を入れる場所が右端にある。

右利きの人が左利きの世界観を理解するだけでも途方もなく大変だということを感じていただけたでしょうか?それが「うつ病の人」「持病がある人」「被災経験がある人」「方向音痴の人」「不登校の人」「発達障害の人」「頭が良すぎる人」「転校生」「転職した人」「高齢者」・・・と自分と属性が違う人がもし話をしているとしたら慎重に聞かないと、、、

「ハサミも上手く使えないの!!??」

と心ない受け答えをしてしまうかもしれませんね。100%相手を中心にして、「ハサミ」も「急須」も「蛍光ペン」も、、、と聴いていくことでその人が住んでいる世界を理解する。それが傾聴だと言えます。

 

2)身体的な世界観の違い

左利きに関わらず、人には様々な身体的な特徴があります。

ディズニーランドで子供があまりにすぐに飽きてしまうので困っていたときにオンライン傾聴講座で学習した「身体的な世界観の違い」を思い出して、子供目線になるようにしゃがんでみました。すると子供の視点からは行列の前後に並んでいる人のお尻しか見えていなかったのです。それは飽きちゃうなと実感しました。ちなみにアンパンマンミュージアムは子供目線で作られているので床すれすれから見た方が楽しい作りになっていて、大人の視点では楽しさがわからないものもありました。(小学校2年生 ママ)

身体的な特徴によって世界の見え方、感じ方が異なります。傾聴を通して「相手はどんな世界の見え方、感じ方をしているのだろうか?」を理解することができます。

身体的な世界観の違いの一例

  • 身長が高いと頭をぶつけやすかったり、地下鉄などが狭い
  • 身長が低いと他の人が見えているものが見えていない
  • 目が悪い人はお風呂場だけが汚れている
  • 体重がある人は階段を避ける傾向にある
  • 高齢者になると「目」「耳」「歯」「呼吸」「歩行」などさまざま

対面していれば、話し手の身体的な特徴を把握する事はある程度できます。しかし、高齢者や性的マイノリティの人など一見しただけでは判断できない人もいます。それだけに慎重に相手の立場になる事をしないとなかなか理解する事はできません。

 

3)社会的な世界観の違い

社会的な立場の違いでも人の世界観はだいぶ異なります。

「りんご」 農家にとっては収入の糧。画家にとってはモチーフ。アップルの社員にはロゴ。白雪姫の魔女には暗殺の道具です。それぞれの社会的な立場によって、ものの価値が変わります。傾聴の第一段階は決め付けずに相手の社会的な立場をしっかりと理解することにあります。

夫婦、経営者と社員、大人と子供、店員と客など立場が違うと世界観が違います。傾聴をするときには「相手は全く違う世界観の人だ」と仮定して話を聴きます。

 

4)過去の経験の違い

人には過去があります。成功体験、トラウマなど、それらによっても世界の見え方が違います。

阪神淡路大震災を体験しました。あの出来事以降、トラックが通って建物が揺れたり、壁がピシッと音を立てるだけで気分が悪くなってしまいます。(40代男性)

嫌な体験をした人はそれに関連する出来事に敏感ですし、成功体験がある人は成功のイメージが湧きやすいなどかなり大きな個人差があります。

 


2.言葉よりも気持ちを聴く

相手の世界観が自分と違うと理解できたら、丁寧にその人の話を聴いていきます。話の前提となる考え方も自分とは違うかもしれません。伝えたいポイントも違うかもしれません。慎重に話を聴きながら特に重視したいのは言葉ではなくて気持ちです。

 

1)気持ちを受け止めるのが傾聴

人は言葉(情報)に気持ちを乗せて話をします。しっかりと気持ちに耳を傾けていると「喜び」「わくわく」「驚き」「恐怖」「不満」「孤独」などが言葉とともに感じられます。

学校のイベントでロボットを見てきて、興奮して親に話したら「知っているよ」とニュースとか本に載っている知識をたくさん話されました。僕は驚いて興奮した事を伝えたかったのにしらけてしまいました。(高校2年生)

傾聴で最も大事なのはその人が最も強く伝えたいと感じている気持ちを受け止めることです。事情聴取ではないので、言葉(情報)よりも気持ちを大事にしてください。「状況を完璧に把握しました!」というよりも「それはさびしかったね!」と共感してほしい。それに答えるのが傾聴です。

 

2)気持ちは言葉になりにくい

「今、不安を感じておられるのですね?」と言われるとあっているような、ちょっとニュアンスが違うような気がする。傾聴のときに話し手が感じているのはこんな感覚です。

何だか胸の奥が詰まっているような、息苦しいような、もしかすると怒っているような感覚を感じました。でも、そうなのかなと思って気持ちを向けると何だかすぐに霧のように消えてしまいます。気持ちは幾つかの色の絵の具を混ぜ続けているみたいで言葉にするのは難しいなと感じました。(50代 主婦)

そんな言葉にしにくいものを探っているのだなと察しながら、傾聴をしてください。言葉になるまでに時間がたくさんかかることもあります。言葉がしっくりこなくて次々に変わってしまうこともあります。それで良いのです。

「私の気持ちは◯◯です。なぜならば◯◯だからです!」と滑舌良く気持ちを説明された時には用心してください。その理解しやすい綺麗な言葉は論理的に作り出されている可能性が高いからです。心というのはもっとあいまいで不安定なものです。

 


3.深く理解された体験がチカラに

誰かが立ち止まって、自分に向き合ってしっかりと気持ちをわかってくれた。深く理解してくれた。そんな体験をすると人は元気になります。ためてきた思いを浄化することもできますし、理解されない孤独感からも解放されるからです。

傾聴とは
①世界観が違う人のその世界観を理解し
②気持ちを受け止め
③それをチカラに変えること
と言えます。

これから細かい技術を学ぶ前に上記の3つをじっくりと考えてみる事をお勧めします。それぞれが非常に難しい事だからです。逆にこの3つが十分にできれば傾聴ができます。傾聴を学んでいる最中に迷いが出てきたらこの項目に戻っていただけると良いと思います。

 


4.子供の話を傾聴する

社会の変化がめまぐるしい中で子供の傾聴(若者の傾聴)が難しくなってきています。IT化によって同じ家にいても何をしているかよくわからない。スマホをしていると言ってもSNSの子もいればゲームの子もいます。ゲームも種類によって、その子が見ている世界観は全く違います。

多様化する社会の中で子供の話を傾聴するには「一般論」を脇に置いたほうがよさそうです。

例えば、子供が「不登校」になると不登校の本や不登校の専門家、当事者の話を聞いて対策を考えるご家庭が非常に多いですが、大事な事が抜けています。それはお子さんには椎名雄一くんのように名前があり、間違っても不登校くんではないのです。不登校に関わらず、当事者が最も嫌がるのが自分ではない何かに向かって対策される事です。一般的な不登校対策を押し付けられるよりは僕の事(私の事)を理解してほしいのです。

ローソンに行くと「ポンタカードありますか?」と聞かれます。マニュアルですよね。お客さんが小学生でも聞かれます。小学生は「誰に言ってんの?」という感覚でそれを聞いています。マニュアル上のお客様に言っているのですが、小学生はそれこそ低学年の子はお財布すら持っていません。このように「誰に言ってんの?」「私じゃない人に言っているんだね」と感じるような場面が今の社会にはたくさんあります。元気なときにはそれはあまり気になりませんが、気持ちが弱くなっているときにはとても寂しく感じます。お母さんが私じゃない「不登校の子」を対象にしたマニュアルを使い始めたら、家の中まで「ポンタカードありますか?」になってしまいます。誰も自分を見てくれない。理解してくれない。そんな孤独感が増してしまうかもしれません。

うつ病患者、ひきこもり、高校生、若者という人はいません。すべての人には名前があります。その名前を持った子供がどんな性格で何が好きで、どんな気持ちになっているのか?それを知るためには傾聴が欠かせません。本人から聴くのが最も正確で最も重要なのです。特に親子で傾聴するときには本人の気持ちを知る事を最優先にしてください。

 


5.人と人のこころをつなぐ

今社会で起きている問題の9割以上が「理解しあえない事」で起きています。親は子供を愛しています。でも、子供の世界観が理解できない。子供も親が大好きです。でも、親の言っている世界観がよくわからない。その結果として、ケンカをしたり、助けられなくて歯がゆい思いをしています。

僕は父とずっと仲が悪くもめていました。でも、40歳を過ぎ、あれも親父の愛情表現だったんだなと感じるようになってきました。寡黙な父でしたし、お互いの理解がないままに愛情を押し付け合っていたんだなと考えるようになりました。(40代男性)

これは上司と部下、夫と妻、先生と生徒、経営者と社員、、さまざまなところで起きています。すべての原因は「理解しあえない事」です。

忙しいときに短い会話やメッセージで情報交換をする事も大事ですが、しっかりと向き合って、大切な誰かの世界観をしっかり理解し、気持ちを汲み取り、同じ視点に立つ事が今の社会には欠かせません。多くの人が孤独を押し殺して生きています。子供だけでなく、親もそうだと思います。部下だけでなく、上司もそうだと思います。そんな人の心の深い部分を理解して、つなぐ、それが傾聴の役割だと私は考えています。

 


6.注意事項

傾聴は話し手が作った道をゆっくりとついていくようにして行います。決して先回りをしてはいけません。

僕が不登校になったとき、お父さんが僕の話を全く聞かずに「わかるぞ!おとうさんが学生の頃もいろいろあった」と話し始めました。でも、お父さんの頃はLINEなんてなかったし、趣味だって『巨人ファンです』とか言っていたらすんでいたわけで、細かく趣味が分かれてバラバラになってしまった学校に行ったことがないのによく言うよ!理解する気がない。上から上書きしようとしているな。と感じました。(高校3年生)

先回り、早合点、聞き手の世界観での解釈をしてしまうと傾聴がただの会話になってしまいます。傾聴で話される話題だけでなく、話のペースや価値観なども話す人に100%合わせることが大事です。

 


▼「傾聴の基本とは?」まとめ▲

ここでは「傾聴の基本とは?」についてご紹介しました。

  • 世界観が違う前提で接する
  • 言葉より気持ち
  • 深い理解がチカラに
  • こころをつなぐのが傾聴

傾聴とは「話し手の主観的な世界観と気持ちを理解しチカラに変える事」です。

ページ下にあるコメント欄に「感想」や「質問」をお寄せください。
「オンライン傾聴講座」は皆さんとの交流によって作られています。よろしくお願いします。

 


次回予告「2.傾聴の目的」

傾聴は「何かをするため」の手段です。子供の元気を取り戻すため。部下の気持ちを理解するため。落ち込んでいる人とともに出口を探すため。目的は人それぞれですが、その目的を忘れずに傾聴を学ぶ必要があります。その思いが傾聴をする時の態度、雰囲気、さまざまなところに影響してしまうからです。実は「目的を持ってコミュニケーションをしている人」特有の空気があります。傾聴にはそれが欠かせません。次回はそんな「傾聴の目的」について学びます。

42件のコメント

  1. ひょんなきっかけから学生さんの部活動を手伝うものです。何時の頃からか、部活の競技の前にあれこれ相談事 家庭の事情が支障となるトラブルをあれこれ聞いて悩むようになってると接点のあるお知り合いの先生から「最近競技の前に、傾聴の割合って増えてない?話してると、だいぶ貴方もあれこれ聞いてだいぶ傾聴を知らぬ間に稽古してるようやなぁ」と言われそんなものか?と思う半面年々増えてきたので必要やとも実感していたので書籍を探し始めたけど、下知識のある方向けばかりしか会えず、下知識から学ばないと凹んでたところに探してて偶然こちらにたどり着けました。

    1. 素敵な出会いに感謝します。
      是非、何か気づきがあればまたコメントしてくれると嬉しいです。

  2. 相手の世界観を理解せず無意識に自分の世界観に当てはめて接してしまうことがよくあります。
    でもそうするとイラだちや不満ばかりが溜まっていくんですよね。
    相手の心に寄り添う傾聴は相手のチカラになるだけでなく、自分自身のチカラ、心の健康にも繋がるんだと感じました。

    1. 「相手の心に寄り添う傾聴は相手のチカラになるだけでなく、自分自身のチカラ、心の健康にも繋がるんだ」本当にその通りだと思います。傾聴をすることで相手も自分も元気になれるなんて、なんてお得なんでしょう!
      また気づきを共有してくれたら嬉しいです。

  3. 読んでいて、話を聞くときはより気をつけようと思いました。
    我が家では、親子の会話で、子どもが「こういうことがあったんだよ」と話があると、「お母さんもそうゆうことあったよ。気持ちわかるよ」と言いがちです。確かに今、子どもたちの環境と、わたしが育った環境は違うし、もしかしたら子どもの感じてることと少し違うこともあるのかも、と少し反省しました。
    これからは、容易にはその言葉を使わず、子どもの言葉を最後までしっかり聞こうと思いました。

    1. 子どもの言葉を最後までしっかり聞こうと思われたんですね。
      お子様も、こっこさんの思いきっと感じてくださると思います。
      ぜひ、やってみて感想を共有してくれると嬉しいです。

  4. 家族や友人から相談された時には力になってあげようと思い、話を聞いてきました。相手の主張に対して自分の意見を伝えていましたが、それは自分の世界観で生まれた内容であり、実は相手の悩みの解決になっていなかったのかもしれませんね。「相手の立場に立って」という言葉は子供の頃から親や学校でいかほど聞かされてきたか分かりませんが、この言葉が意図するところ事こそが、相手の世界観に寄り添うという事なのですかね。

    1. 確かに、「相手の立場に立って」は子どもの頃から言われていることを思い出しました。
      その言葉は相手の世界観に寄り添うという事だと思いました。
      相手はどんな世界観を持っているのか、それさえ分かってしまえば、世界の紛争でさえなくなる気がします。
      そこまで大それたことができなくても、家族や友人など身近な人の世界観に寄り添えるだけで、人付き合いがガラッと変わりそうですね。

  5. 人に良く相談されるほうなので、自分では「傾聴」ができていると思っていましたが、記事を読んで、気を付けなければならないことや自分では気が付かなかった傾聴のノウハウがあるんだと思いました。
    具体的な例がたくさん載っていたのでとてもわかりやすく読めて参考になりました。
    今後、人に相談されて困ったときに読み返したいと思いました。

    1. 嬉しいコメントありがとうございます。
      是非相談を受けたときに、疑問や課題が出てきたときにまた戻ってきてくれたら嬉しいです。
      その成果を是非共有してくれると嬉しいです。

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